新年最初の投稿ということで、あけましておめでとうございます。
さて、2017年も様々なプロジェクトに関わらせていただいて、考えるところも色々とあり、そんな中で改めてWeb(ヴァーチャル)とリアルの捉え方についてという、私が修士課程の中で一つのお題とさせていただいた事項について2018年の今だからこそ取り上げたいと思うところがあったので、今回はそこについて触れさせていただく。
※小難しい話です。
リアルとヴァーチャルは対義語ではない
ジル・ドゥルーズという20世紀フランス現代哲学を代表する哲学者は以下のように述べている。
可能的なものは、実在的なものに対立し、したがって、可能的なもののプロセスは、「実在化」であって、反対に、潜在的なものは、実在的なものに対立せず、それ自体ですでに、まったき実在性を所有しているからである。潜在的なもののプロセスは、現実化なのである。
(ジル・ドゥルーズ『差異と反復』(財津理訳、河出書房新社1992))
平易な言葉に直すと、リアルと対になる言葉はポッシブルであり、ヴァーチャルと対になる言葉はアクチュアルとなる。前者が実在性に縛られるのに対して、後者はシミュレーションからの現前化を辿る、プロセスの異なる現実の事象として捉えることができるわけだ。
故に、リアルな事象とヴァーチャルな事象は、対義的に捉えるよりも、別軸で存在する現実として捉えることが望ましい。
初期こそ、インタラクティブ性やアクセシビリティといったメディア特性ばかりが脚光を浴びたWebではあるが、IoT時代を迎え、その存在はよりリアルな生活の場の一端としての役割が増してきている。
Webのテクスト論的捉え方
別軸で捉える、となった際に参考になる考え方として、これもまた学術的な文脈からの説明が可能だ。
ロラン・バルトという、ドゥルーズと同時代の哲学者が唱えたテクスト論においては、文化形成の場として「テクストの場」というものが指摘される。
バルト曰く、様々なエクリチュール(テクストの哲学的概念)が結び付き、異議を唱え、そのどれもが起源とならず、多元的なエクリチュールが読者に収斂していく場こそがテクストの場となる。
こういうと複雑な話に聞こえてくるが、恣意的な検索によって部分だけを容易に拾い集めることのできるWeb上のテクストは、時に一人歩きし、それを拾った不特定多数の人間によって無尽蔵に複製され、広められていく。
そして同時に、簡単に歪められ、都市伝説のような扱いをも受ける。これこそがWeb独自の引用法であり、この繰り返しによってWeb独自の文化形成がなされることもある。
もう少し具体的な話で言うと、ネットスラングとして2ch用語というものがある。その多くは、元を正せば間違いの揚げ足取りだったりするものであるが、「既出」を「ガイシュツ」と表記する、「奴」を「香具師」と表記するなどといった例に見られるように、一種の言葉遊びを形成している。これは正しくテクストの場が発生したものであり、そうした遊び的な行為によって、一つの文化として帰結したものだ。そしてこういった言葉がまとめサイトなどを経由して一般にも広まる。
非同期コミュニケーションを通じて元の話者の手を離れ、その持つ意味が変換され、新たな流通形態を見せる。こういった流れが現れ出るのはWebならではの特徴であり、複製過程=シミュレーションを経てアクチュアルと化し、リアルだけで完結する世界とは異なったプロセスを経て文化が生まれ、我々の生活の中に現前しているわけだ。
今後必要になるミクスチュア
さて、なぜこんな小難しい話をしているかと言えば、オムニチャネル/O2O/IoTといった世界の中でマーケティングを考える際には、フォッグ式行動モデルなどに代表されるような、身体性を伴う「面倒くささ」を回避する必要のあるリアルでのマーケティングと、断片的情報が思わぬ結び付きを見せるWeb(ヴァーチャル/デジタル)でのマーケティングを混在させて考えるということが重要になってくるというインプットを、このタイミングで改めて考えていただきたいと思ったからだ。
得てしてリアルとデジタルは違うと、あたかも対義的存在として語られることも多いが、プロセスの違いこそあれ、共に現前と存在する事象であり、その異なる感覚を混ぜ合わせたような発想こそ重要になってきている。
その際に必要なのは、想定されたジャーニーの中で、リアルのプロセスを経由する場合と、Webのプロセスを経由する場合で、それぞれにどのような捉えられ方の違いが発生する可能性があるのかを意識した施策を考えられているか、もしくは互いの影響がどのような可能性を生むことが想定されるかなどを、ほんの少し、頭の片隅に置いておくということだけなのかもしれない。
既に我々が生活している世界は、この二つの現実が混淆とした世界なのだから。
タナカさん
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