今回は、デザイン思考の3回目です。残りの手順の具体的な実践方法について、マクパンマン氏が教えてくれるはずなのですが…。
おはようございます、ウサ子さん、お茶がはいりました。
お二人の行動は既に観察済みです。死角の把握なんてたやすいたやすい。
はいっ!それでは
前回は、手順1における「観察」と「共感」を実施する際の留意事項やコツをお伝えしましたね。
すると今日は手順2、収束思考で「正しい問題」を見つけ出す、ですね?
そうなのですが、実は前回、慌てて帰ったため大事な確認を忘れていました!
えーーっと。(汗)その大事なこととは、「共感」の大切さです。
それって、「常識や先入観に囚われずに顧客に寄り添う」ことが大事ということではないんですか?
それはその通りです。ただ、ちゃんと「共感」のフェーズを通らないと、得てして入手した情報のみから予想で判断してしまいがちなのです。
例えば、途上国において、低体重児は、脂肪が少ないため自力で体温を調整できず、低体温によって数日で死亡するケースが頻繁に発生します。そこで必要なのが「保育器」なのですが、今までは高価なためなかなか途上国に行き渡りませんでした。
それって、それまでの数百万円から、途上国の病院向けに4万5千円の画期的な低価格の製品が開発されて、アワードも取得したっていう記事を読んだことがあるわ。
はい。高価で行き渡らないなら、低価格の製品を開発すればよいというのは道理ですよね。でも、実際に現地に足を運んだ、ある保育器の開発者は、病院に保育器があっても使われずに放置されている状況に出会います。
ええっ!?せっかく保育器があるのに使われない?なぜですか?
保育器が必要な乳児の多くが、実際には、病院から遠く離れた、電気もないような奥地で生まれることが多いのです。そこで開発者は乳児のいる家庭にまで足を運び、その様子をくまなく観察してインタビューを実施した結果、次のことに気づくのです。
はいはいはい。本当に必要なのは、「単なる安価な保育器」ではなく、「地方の母親向け保育器」だったのです。
完成したのは、寝袋状のものに加熱パックを内蔵した製品です。3,000円程度と更に安価なだけでなく、電気も不要です。これで、3,000人以上の乳児の命が助かりました。
(出展:開発者のジェーン・チェン氏によるTEDプレゼン動画)
どんなに精緻な頭の中だけの机上の論理よりも、とにかく現場で泥臭く「観察」して、現状について深く顧客と「共感」することの大切さを物語っているわね。
真のイノベーションとは、例えばこういうことではないでしょうか?
なるほど、それでこの手順1の重要性を何度も強調しているんですね?
はい、とにかく、デザイン思考では、ここがキモなんです。その後の手順の成果は、この手順1次第と言っても過言ではないでしょう。
単なる参考情報の収集といったレベルで取り組んでいては、全然不足ってわけね。
はい。でもここでしっかり観察と共感ができれば、その後の手順は一般的なノウハウで進めることが可能です。
一般的なノウハウ?次は手順2、収束思考で「正しい問題」を見つけ出す、ですが。
はい、手順的には、収束思考→発散思考となっていますが、実際には、その二つの思考フェーズを何度も行き来して「気づき」を得ることになります。
(パンチ)アルキメデスが原理を発見したときに叫んだのよ!「私は見つけた」「分かったぞ」「解けた」って感じ。
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手順2.収束思考と、手順3.発散思考
それでは、手順2の収束思考ですね。それにはやはり「KJ法」でしょうか。
はい(笑)、文化人類学者で元東京工業大学名誉教授の川喜田二郎氏が考案した方法です。正式なKJ法はもっと緻密な手順が必要なのですが、ここでは「KJ法的手法」としておきますか。
バラバラの情報を類似した内容でグループ化していって、構造化していく手法よね。
さすがウサ子さん!で具体的にはどんな感じなんですか?
<KJ法的手法の具体例>
内容が類似するということは、何らかの共通パターンがあるということです。そこでなぜ共通パターンが生まれるのか?という疑問に答える仮説や洞察が生まれるわけです。
それが、収束思考で「正しい問題」を見つけ出すってことにつながるわけですね。
そうして出てきた「仮説としての問題点」を解決するための手段としてポピュラーなのが、ブレインストーミングです。(手順3.発散思考で「解決策」を大量に創造する)
いわゆる「ブレスト」ってやつですね。これなら僕も知ってます。
他人のアイディアの批判をしないっていうルールは結構守れるけど、なかなか他人のアイディアをさらに発展させるっていうのが難しいのよね。一歩間違えると元の意見を批判することにもなりかねないから自重しがちになるの。
できるだけ、手順1で集めた素材(写真、ビデオ等含む)を手元に置きながら議論をするとより具体的で有用な意見が出せますよ。
でもダラダラは禁物よ。1時間で集中してやるのがコツね!
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手順4.実行案を決定し、失敗を前提に「アウトプット」を繰り返す
そして、いよいよ「手順4.実行案を決定し、失敗を前提に「アウトプット」を繰り返す」ですね!
はい。実行案自体はプロトタイピングの手法を取り入れます。しかも、「ラピッド・プロトタイピング」と言われる手法です。
通常は、プロトタイプと言ってもかなり完成品に近いものを作成することが多く、入念な準備が必要となりますが、ラピッド・プロトタイピングでは、とにかくまず作ってしまうのです。
新たな医療機器を開発する際に、たまたまその場にあったホワイトボード用のマーカーペン、カメラフィルムのケース、洗濯ばさみをテープでくっつけて具体的なイメージを共有したっていう話を聞いたことがあるわ。
まさにそれです。それでも立派なプロトタイプなわけです。口頭や文字でイメージを伝えようとしていた時とは段違いに、その後、どんどんアイディアが飛び出して、この電子メスが実用化に至ったということです。
なるほど、とにかく、「手軽」「低コスト」「短時間」がポイントってことですね!
そうやってできたプロトタイプを市場で徐々に試して完成度を上げていくわけね。
* * *
ストーリーテリングによるプレゼン技法
最後にデザイナーのプレゼン技法をお話しましょう。ストーリーテリング(英雄の旅)です。
英雄の旅だなんて、RPGみたいで、なんだかワクワクしてきますね。
カバ夫さん、実は鋭いです。ハリウッドのヒット映画の脚本作りでも使われているフレームワークなんですよ。先ほどのTEDのプレゼンもその影響を受けているかもしれませんね。
①普段の世界 :現実の世界はどのような課題が存在するのか?
②冒険への誘い :今のぬるま湯の世界を出るきっかけとなるできごと
③迷い、葛藤 :冒険で得られるもの(便益)と失うもの(コスト)の葛藤
④メンターとの出会い :思いもしなかった支援者の現れ
⑤試練(敵との遭遇) :冒険において、宝物を得るために越えなければならないハードル(競合、心理的ストッパー等)
⑥報酬 :試練を越えたことで得られる報酬(便益)
⑦帰還 :冒険を経て、現実の世界に戻ってきて気づいた多くの学び(人間的成長等)
⑧宝物を手にする :結果的に大成功している姿
これは、アメリカの神話学者ジョーセフ・キャンベルが世界中の神話を研究した結果、その共通点を見出しそれを法則化したものです。「スター・ウォーズ」や「指輪物語」もこの法則になぞらえて作られたといわれています。この旅は、神話だけでなく、私たちの人生にも共通することが多いため、人生の局面や現在おかれている状況の分析にも活用することが可能です。
これを、自分たちが提案したい商品やサービスに置き換えて顧客にアピールするわけです。
・主人公であるサービスのユーザーが(物語の主人公である英雄が)
・サービスを使うことの便益を得るために(宝物を得るために)
・日々感じている課題に取り組むことで(試練に打ち勝つことで)
・毎日がちょっと幸せになる(成功してハッピーエンドを迎える)
なるほどね、デザイン思考の手順で開発した商品やサービスを英雄の旅を使ってユーザーにアピールするわけね。確かに実際の体験を盛り込んでアピールすれば説得力も増すわ。
ウサ子さん、それじゃあ、そろそろ僕たちのミッションに取り掛かりますか。
そうね、なんだかアイディアがあふれ出てくる自分が想像できちゃうわ。
それはよ、よ、良かったですね…!す、すばらしいWebマーケ施策を考えてくださーい!
あら、残念ね。たまには私がお茶でも入れてあげようかと思ったのに。
<参考文献>
デザイン思考でゼロから1を作り出す(中野明)
21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由(佐宗邦威)
システム×デザイン思考で世界を変える(前野隆司)
研修・ファシリテーションの技術(広江朋紀)
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神奈川県出身。一橋大学社会学部卒。中小企業診断士。NTT、セガ等を経て現在ウフル・マーケティングクラウド本部に所属。勘だけに頼らず、定量的な根拠に基づくWebサイト運営を是とするPDCA-Webマーケター。その一方で星座の世界を好むロマンチストでもある。禁煙には成功したが、ダイエットは成功の糸口さえ見えない今日この頃である。