「この世にはね、不思議なことなど何ひとつないのだよ…関口くん」というのは京極夏彦先生の作品に登場する有名なセリフだ。
何を急にと思うかもしれないが、京極先生の作品にも登場する妖怪と可視化には、ちょっとした関係があることをご存じだろうか。
前回、次回インフォメーションアーキテクチャ(IA)について…と書かせていただいたが、例によって少し前知識を語らせていただきたく。
妖怪は可視化のよき先例
妖怪というと、子供向けの怪談や某アニメを想起される方も多いだろう。
だが、実はこれは日本発祥の絵画の一形態でもある。百鬼夜行という、妖怪変化が行列する様を描いた絵巻は室町時代から続き、数々の著名な絵師が描画してきた伝統ある絵画だ。百鬼夜行に描かれる妖怪は、基本的には付喪神――器物や動植物が妖怪化したもの――である。
そして、付喪神の存在は、「見慣れているはずのものの異質感」故に生まれる恐怖や違和感を存在として定義したものであり、それを妖怪として描くという行為は恐怖の可視化といえる。
もちろん、怪異の可視化というのは日本に限らず、世界各国である現象だ。
しかしながら、この妖怪という形態での可視化には面白い特徴がある。
「ゲゲゲの鬼太郎」や「妖怪ウォッチ」といった漫画・アニメが愛されているように、百鬼夜行に描かれる妖怪にはその出自と相反するような愛らしさがある。その背景には、日本古来からの宗教観にも通ずる、万物に魂が宿るという思想が反映されている。
私は(個人の意見として)データの可視化にも、この思想は重要な要素だと考えている。
データは絶対値、されど相対値
さて、話を本筋に戻そう。
データの可視化における情報設計で重要なのは、その数値を見るに当たっての優先順位を明確にすることだ。
そう、前回お伝えしたエディトリアルデザインの話において、タイトルや見出しの大きさで視認性や飛ばし読み可能な設計を行うといった内容と同じで、一つひとつの要素の大きさや色、配置など、個々の要素をどのようにレイアウトするのかは非常に重要な要件となる。
単純にデータを図版化し可視化すると、どうしてもその型となるグラフパターンなどに引き摺られて表示領域の大きさが重要と連想しないケースが出てくる。情報設計においてはこういった重要度と表示領域の大きさのバランスを取り、必要に応じた簡略化などを行うことが肝要なのだ。
大きさだけではない。異なる情報間のつながりや、流れといったものを、配列や視線誘導のテクニックなどで表現することも重要となる。こういった情報の設計こそが、IAの領域だ。
これらは多くのBIツールにおけるデータの可視化で実現できていない大きな要素である。
個々のデータを可視化し、コンポーネントとして並べる。
確かに単純な可視化という要件はそれでクリアできるかもしれない。しかしながら、それでは本当の意味での理解は生まないのだ。
データに愛着を
ではこういった基本設計だけできていれば良いのかというと、これもまた違う。
データをわかりやすく理解速度を高めるだけであれば、IAの領域で充分カバーされるかもしれない。
しかしながら、それだけではまだデータの記号化でしかない。本当の意味での可視化は、そこにどのような魂がこもっているのかまで何らかの形で表現することも必要だと私は考える。
先に述べた妖怪の話が、ここでつながる。
怪異の可視化は世界各国で形として表れているが、多くの場合、恐怖の体現に向かう。比較的文化的にも近い中国でさえも、日本における擬人化的なものよりも、霊的存在としての表現が多い。
しかし、それは限られた一面的な情報のみを可視化した姿に過ぎない。情報というものは、結果としては単一だとしても、そこに至る過程は様々である場合が多く、そこに至る根源的価値を知ることで捉え方が変わるということは儘ある。
そういった根源的価値に目を向け、芸術の一つの形として体系立てられたのが百鬼夜行絵巻だ。ただの恐怖の対象として捉えるのではなく、元来身近な存在であり、一方的に排他すべき存在ではないことも踏まえ、その愛らしさまでもが表現されているわけだ。
これは、データの可視化にも転用可能だ。
“Art of Data”という、弊社の掲げている看板にはこういった想いも含まれている。
その数字を築き上げた人達の様を如何に反映させるか。どのようなスタンスでそのデータを見るべきか。
ただ可視化するのではなく、その場、その人ならではのスタイルを反映すること。
これを実現するだけで、同じデータでも見方は変わってくる。
客観的な視点に、熱意や愛情を込める。
馬鹿々々しいと思う人もいるかもしれないが、実際問題、同じデータを扱っても、そこの魂が籠っているだけで結果は大きく違ってくるものだ。
或いはいつか、こういった無意識の影響を可視化してみるのも面白いかもしれないが、中々複雑そうなので今はそっとさせていただく。
タナカさん
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