マジックナンバー7という言葉を聞いたことはないだろうか。
Webのユーザビリティを語る上で、2000年代によく語られていた言葉だ。
その意味は、人が短期記憶で記憶できる情報の塊(チャンク)の数。
しかし、本当のところ、これは大いなる誤解なのだ。
提唱者は決して断言していない
この数字は、アメリカの認知心理学者のジョージ・ミラー(注:マッドマックスの監督にあらず)が1956年に提唱したもの…とされているが、実は当の本人はこれを解とはしていない。
彼の論文では、世界の7不思議、7つの海、7つの大罪など世の中に様々な7が存在することを挙げた上で、次の様に述べている。
For the present I propose to withhold judgment. Perhaps there is something deep and profound behind all these sevens, something just calling out for us to discover it. But I suspect that it is only a pernicious, Pythagorean coincidence.
現在のところは決断せずにおこう。これらの「7」の符号する背景には何か深淵な、内に秘めたる理由があるのかもしれない。 しかしながら、これは悪質な、ピタゴラス的偶然に過ぎないと考えている。
(The Psychological Review, 1956より抜粋)
どうだろうか。これがあたかも研究結果の結論であるかのように流布しているわけだ。
※ 流布した原因は、UIデザインの権威たるO’Reilly発行の書籍に記載されていたためとされる。
もっとも、当時は7つでもだいぶ数を絞った状態に整理される状況にあった。
より正確な研究が導き出したのは4±1
2001年、ミズーリ大学の心理学教授であるネルソン・コーワン(注:コーエン兄弟とは関係ない)が発表した論文によると、4±1こそがマジックナンバーとされている。
そう、熱心な読者なら覚えているかもしれないが、以前の心理学テクニック編で「5つというのは人が短期記憶で認識することができるギリギリのボリュームだ」と書いたのはこれを根拠にしている。
そして、もっと身近なところでこの4±1による情報分離(チャンキング)が用いられているのにお気付きだろうか。電話番号である。
例えば09012345678と記載されても認識し難いだろう。
しかし、これが090-1234-5678とハイフネーションされてチャンキングされることで、一気に認識しやすくなる。
これは「7」と「4」の差異を見る場合にも有効だ。
弊社の現在の所在地である神谷町の郵便番号は〒105-0001だが、これが1050001と表記されると、実に分かり難い。零がいくつあるのか、そもそも桁数は何桁なのか。パッと見では見間違える可能性がある。
このように、非常に身近な例で見ても4±1の効果は明らかだ。
余談だが、ミラーが世界の「7○●」を事例として挙げたのと同様に、日本では「3○●」というのが多く存在する。
三種の神器、三拍子、御三家、日本三景、三大美女といった具合に。
実は日本では3という数字は「充足」や「創造」の意味合いを持っており、認識しやすさに+αが足されている感覚が付与されたりもするのだ。
マーケティングでの用い方
さて、マーケティングの世界に戻ろう。
マジックナンバーが4±1だとして、これをどう扱ったら良いのか。4つなんて情報量が少なすぎると嘆くのは早計だ。ここにおいて重要なのは、チャンクが4つ程度であることが認知における重要な閾値となっているということなのだ。
つまり、情報をグルーピングすることで、より認識されやすい設計に持ち込んでいく。
もちろん要点を絞って話すということも重要ではあるが、絞り過ぎて必要な情報が存在しないという状態に陥るのはもっての外。情報を整理し、読み手に分かり易いラベリングで括ってあげることで、情報への到達可能性は格段に向上する。
しかしながら、こういった作業は、簡単に見えて意外と難しい。
マーケターが本質的に真価を発揮すべき、或いはより磨き上げなくてはいけないのは、こういったラベリング整理とコピーライティング的な能力だったりする。
そう考えて世の中のWebサイトなどを見てみると、当たり前のように平易で分かり易いことばで括られているものこそ、プロの技が光っているということに気付くこともあるかもしれない。
尚、こういった技は提案書や企画書、プレゼンテーションなどにも応用できるので、デジタルマーケティング以外の分野でも是非ご活用いただきたい。
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タナカさん
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