今回は前回に引き続き、行動経済学をWebマーケティングの観点から、信一や羌花たちと一緒に考えていきましょう。その前にちょっと登場人物が増えてきたので、おさらいを。
信一(しんいち) 広告代理店に勤める若手マーケター。王木には童信と呼ばれる。
羌花(きょうか) 信一の同僚。謎めいた精神統一法の使い手。
王木(おうき) 大学教授。Webマーケティングの権威としてセミナーを開催している。
勝(かつ) 王木の助手。奇妙な音を発し、複雑な図をあっという間に描きあげる。
リーボック マーケティング学会での王木のライバル。
ホーケン リーボック研究室の主任研究員。
王木:ココココ。今日は行動経済学のキーワードをいくつか確認しながら、私たちのテーマを決めていきますよォ、童信。用意はいいですかァ?
信一:どんと来い!
王木:相変わらず元気だけはいいですねェ。ここまでのところで、行動経済学のイメージはどのように感じていますかァ?
信一:要は、人間ケチが多いってことだな。少しくらい得するよりも、とにかく損をするのが嫌いだってことじゃないのか?
羌花:確かに、価値関数にしろ、確率加重関数にしろ、損得勘定が完全に守りに入っているように見える。
王木:どうして人間が、守りに入りがちなのか、考えてみたことはありますかァ?
羌花:なるほど…。信は、買い物をするとき、選択肢が3個の場合と、20個の場合では、どちらが良いと思うか?
信一:そりぁー、選択肢が多いほうがいろいろ選べてお得なんじゃないのかなぁ?
羌花:婆に聞いた話…。
謎の人物:人間、選択肢が多くなりすぎると、逆にどれが良いか決められなくなってしまうのじゃ。後悔したくはないからのう。
羌花:婆!
婆:本来一族を裏切ったお前の力にはなれぬが、リーボックには勝たねばならぬ。そこの信とやらにがんばってもらわねばのう。
信一:あんたがうわさのキョウカのBBAか。
婆:BBAとはなんじゃ。婆と呼べ。
信一:(大して変わらんと思うが…)ひょっとして、後悔したくない心理は損失回避につながるってわけか!
婆:勘だけは良さそうじゃな。そうじゃ、それを決定麻痺という。ネットでもリアルでも、ついたくさんの品揃えを顧客に見せ付けて、豊富さだけを売りにすることも多いようじゃが、逆効果になる場合も少なくないということじゃ。
信一:それじゃあ、単純に数を減らせば良いのか?
羌花:いや、見せ方の問題だ。フレーミング効果だな。松竹梅でレベルに分けて提示するとか、品揃え自体は豊富でも、選択対象を絞り込ませれば、顧客は判断できるようになる。
婆:ほう、成長したな、キョウカ。幽族への敵討ちもそう遠くはなさそうじゃ。
信一:なんだか物騒な話だな。まあ、確かにコピーライティングのテクニック的にも、伝え方が大事なのはわかるよ。「7つの習慣」とか数字が入るとインパクトが強まると同時にわかりやすくなるのは、相手の頭の中にその数だけ自然と箱が用意されるからなのかもしれないな。
羌花:確かコピーライターの佐々木圭一氏が他にもいろいろと伝え方の技術をまとめてくれていたな。ネットで調べ…。あれ?ちょっと信、私のスマホを見なかったか?
信一:いや、知らないな。家に忘れてきたとか?
婆:それはこれのことかの?スペクターの基地に保管されていた。
羌花:婆。ありがとう!
婆:次は自分で取りにいくのじゃぞ。それでは達者でな。
信一:キョウカの婆は一体何者なんだ?でも、一度決めたら決めたで、他にもっと良いものが出たりすると悔しいんだよな。
王木:ココココ。童信、なかなか鋭いですねェ。そう、人間、後悔するのは大嫌いなので、逆に一度決めたことは正当化したがるものです。
羌花:認知的不協和か。自分が買った製品に対する他人の良い評価や競合製品の悪い評価の情報を集めて、自らを納得させるという…。
信一:なんだか、人間って小さいなあ。人間の行動の動機付けってそんなみみっちい理由ばかりなのかな。
王木:いいところに気づきましたねェ、童信。そこにリーボックに対抗するカギがあるのですよォ。
羌花:そうか!マーケティング4.0。それならリーボックやホーケンたちのマーケティング3.0に勝てるかもしれない。
信一:2014年9月にコトラーが提唱した自己実現のマーケティングか。
王木:ほう、童信も一応知っていましたねェ。勝、お願いしますよォ。
勝:ハッ。ファルファルファルファル。
羌花:自己実現か。マズローの欲求5段階説の第5段階。現在のマーケティング3.0では、第3段階からせいぜい第4段階までしかカバーできていないと言われている。
王木:今まで学習してきた行動経済学は、この第1段階、第2段階に目を向けたからこそ人間の合理性の限界を指摘し、根源的な性質をあぶりだせたわけですねェ。一方、SNSが発展して、消費者の発言力が高まると…。
羌花:消費者たちが企業とともに商品やサービスの開発に関われるような関与マーケティングが有効になってくる。それが、第3段階、第4段階というわけだ。
信一:なるほどな、でも自己実現っていうのは一体どうすれば…。
羌花:それはやはりネスレ社の「ネスカフェ アンバサダー」制度がお手本になるのではないか?
信一:アンバサダー制度?
羌花:オフィスのコーヒー需要に応えるために、無料のコーヒーマシンを提供することにしたが、コーヒーの粉の在庫含めた管理をどうするかが課題だったらしい。でも一杯30円で提供するためには、これ以上コストは掛けられない。そこで、自主的に美味しいコーヒーを職場で飲めるよう取りまとめてくれる個人を募集したところ、たった2週間で1,200人も集まったということだ。
信一:へえ、ほとんどボランティアだよね。
羌花:それでも、「あの人のおかげでいい職場になった」「美味しいコーヒーをありがとう」と感謝されることがモチベーションになり、さらなる職場改善を担っていこう思えたことが自己実現の一つになっている。これは第4段階を超えて、第5段階に入っているとみなせるだろう。
信一:なるほどな。必要だからやるというだけじゃなくて、自分も含めたみんなのためになることがモチベーションを高めてさらに新たな展開へと続く好循環を生む可能性もあるね。
王木:それをWebマーケティングで考えてみると…。
羌花:そうか、インフルエンサー。
信一:予防接種ならばっちり済んでるぜ!
羌花:トーン、タンタン…。
信一:わかったわかった、オレは敵じゃないから。落ち着いて。
王木:童信は、ベン・マコーネルとジャッキー・ヒューバの「90:9:1の法則」を知っていますかァ?
信一:1%の法則とも言われているやつか?
羌花:オンラインコミュニティを構成する3つのグループ、「オーディエンス(コンテンツを読むだけ)」「エディター(コンテンツの編集は行うがゼロから創造はしない)」「クリエイター(新しいコンテンツをゼロから創造し、コミュニティをリードする)」が、90:9:1に近い比率になっていると、そのコミュニティが活性化するということらしい。
信一:するとこの「クリエイター」や「エディター」が自己実現できる環境を整えてあげることで、企業は有益なマーケティング活動ができるわけか。
王木:その通り。彼らは自分たちの自発的な活動が他のメンバーの役に立てることに誇りと喜びをもって取り組んでいますから、逆に彼らを敵に回したらとんでもないことになりますよォ。その影響力は計り知れませんから。
羌花:オンラインコミュニティで自己実現を達成することを望んでいる、このようなインフルエンサーたちをいかに味方につけるかが、企業のマーケティング戦略上とても大きな分かれ目になるというわけだな。
信一:ああ、キョウカが同僚で良かった。こんなやつが敵だったらと思うとぞっとするよ。
羌花:こんなやつ、だと?トーン、タンタン…。
信一:あれ?キョウカ、その渦巻きみたいな模様の鉢巻はいつの間に?…お昼行ってきまーす!
というわけで、行動経済学×Webマーケティングは一旦終了です。
またいつか信一たちと会える日をお楽しみに。
<参考文献>
ネスレの稼ぐ仕組み(高岡浩三)
伝え方が9割2(佐々木圭一)
ボイス ソーシャルの力で会社を変える(田中正道)
TAIZO
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