モノづくりで重要な「監督」

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『シン・ゴジラ』に続いて『君の名は』が大ヒットしている。
共に作品としては、庵野秀明氏・新海誠氏に対する評価が非常に高く、それぞれの過去作に遡った評価がなされている。こうした評価が現れるのは、彼らの作家性が色濃く反映された作品であるからであろう。

監督という立場

庵野氏・新海氏の両名は、当該作品において脚本も担当しているということが、彼らの作家性が色濃く出た背景にあると言えるのではないだろうか。一方で、二人のそれぞれの作品における立ち位置は微妙に異なる。庵野氏は『シン・ゴジラ』の総監督であり、監督には樋口真嗣氏がついている。新海氏は『君の名は』の監督という立場(総監督という存在はない)。これはある意味、『シン・ゴジラ』の方が特殊な体制ではあるのだが、特技監督も務める樋口氏は庵野氏とは古き盟友であり、個人としても充分な興行収益を重ねた映画監督である。

さて、ここからが本題だ。
今回、『シン・ゴジラ』の撮影にあたって樋口氏が語った言葉に「庵野氏の脚本をいじらせないよう尽力した」というものがある。当然ながらこれだけの規模のエンターテインメントとなれば関係者の数も多く、様々な権利が絡んでくる。最終的に制作委員会方式を取らず、東宝のみでの制作を決めたのは東宝の上層部の方ではあるだろうが、現場としての交渉を行うのは監督の仕事である。そういった意味では、脚本家であり、映像監督としての庵野氏の作品を成功させるために尽力した樋口氏は、現場のスタッフとしての庵野氏を輝かせるための監督業において重要な役割を果たしたと言えるのではないだろうか。
もちろん樋口氏自身、特撮/VFXの担当監督として、或いは自身が「世界でゴジラに精通している100人の一人」と自負するほどのIPへの愛をもった一ファンとして、作品としての最高の形を目指したということは言うまでもない。

その他のエンターテインメント業界における「監督」

監督という職種は、何も映画業界にだけ存在するものではない。
例えばゲーム業界。いま正にヒットしているものとして、『ペルソナ5』というジュブナイル・RPGシリーズの最新作があるが、このシリーズにおいて監督といえる存在は、ディレクターたる橋野桂氏が相当する。ディレクターとはつまり、日本語に訳すと監督である。
ゲーム業界においては「監督」という呼び方はあまり用いられないが、例えば『メタルギア』シリーズで有名な元コナミの小島秀夫氏は監督の肩書で仕事をしている。氏は以前インタビューにおいて「仕事は映画監督と同じであり、ゲームを監督しているから」、「外国においてディレクター(=監督)って何?と聞かれることはない」とも語っている。
そう、カタカナ表記と漢字表記で用途を分けがちではあるが、ディレクターと監督は、本来においては同義であるのだ。

マーケティング業界における「監督」

だいぶエンターテインメント業界の話が長くなったが、ここは主にデジタルマーケティングに関する話をするところ。
ではデジタルマーケティング業界における監督とは何であるか、或いは非エンターテインメント業界でのモノづくりにおける監督とはどのような存在であるだろうか。

また話が逸れるが、例えば産業界において監督と付く職種に「現場監督」というものがあるが、これは必ずしも現場の責任者ではなく、現場の指揮者を指す。また、建設業では「監督員」という、不法・不平等な運用がなされないよう監視・検査を行う官職もある。
実際のところ、監督業というのは非常に不定形の業務が多く、エンターテインメントのようにわかりやすい作品といった形に落とし込まれないことが多いがゆえに、その曖昧さは益々増大するばかりだ。とはいえ、全体を俯瞰して見て、方向性を決め、顧客と交渉を行い、進行管理と品質管理を行う業務というのは必ず存在する。
それは時にコンサルタントと呼ばれ、時にWEBディレクターが担い、実施される。

時にコンサルタントやWEBディレクターは、特に企画確定のタイミングを過ぎると業務が見え難く、「そこは自分たちでやるから」と語られるお客様もいらっしゃるが、それはつまり、監督を代行するという重責であることが、意外と認知されていない。例えばデザイナーへの指示一つを取っても、経験や知識が重要になるケースは多分に存在する。
優秀な分析スタッフや優秀なデザイナーがいても、優秀な監督がいないと形にならないプロジェクトというのは、世の中に溢れかえっているのだ。

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タナカさん

兵庫県出身。2003年東京外国語大学大学院修了(学術修士)。ウフル・マーケティングインテリジェンス本部(旧マーケティングクラウド本部)のたぶんちょっとエライ人(弊社CSOの田中正道とは別人)。 データドリブンなマーケティングに関して、その仕組みの設計からクリエイティブまで経験。趣味はバルトやデュルーズといった現代思想の研究から草の根音楽活動までと多岐に渡る。要するにオタク。
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