IoT時代のマーケティング

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今回は新年初めの投稿ということで、少し真面目な話をしたい。
マーケティングの未来のことだ。

近年におけるイノベーションの変化

近年といっても、既に過去として忘れ去ってしまっている、もしくはそもそも知らない人もいるのではないだろうか。
今でこそ概ねスマートフォンが置き換えてしまっているが、かつては携帯型音楽機器が人々の移動における矜持の中で大きなウェイトを占めていた。この革命を起こしたのは、言わずと知れたSONYのWALKMANだ。
しかし、その隆盛もいつしかappleのiPodに取って代わられる。…個人的にWALKMANが好きだった私としては悲しい話だ。
しかしながらだ。実はSONYはiPodに一年先行する形で、フラッシュメモリー版のNetwork Walkmanを世に出していたのだ。それでも世の中では、iPodがイノベーターとして捉えられ、大流行した。
この違いは何であったか?
好みもあるので異論もあるとは思うが、音質、特にデフォルトでついているイアフォンを用いて聞いた音の粒などはSONYのWALKMANの方が質が良いと言えた。これはAV機器メーカーとしての誇りもあるだろう。しかしながら、時代が求めたのはこういった製品としてのクオリティよりも、ユーザーに提供されるソリューションだったのだ。
appleが提供したiPodは、音楽のインストールが当時のポータブルオーディオプレーヤーとしては非常に簡便であり、ユーザーのニーズにフォーカスされた作りであった。

この事例は、パラダイムシフトを如実に表している。
つまり、これまで企業の創造力にこそ存在したイノベーションは、消費者のニーズにこそ存在するようになったわけだ。

進化する市場

さて、先の事例の時代は、まだ今のようにSNSが普及した時代ではない。
2001年といえば、All Aboutが日本に上陸した年であるし、ようやくブロードバンド通信が普及しだした頃だ。インターネットの世界はここから加速していき、検索の浸透やSNSの一般化など、目まぐるしい変化が現れる。
それまで限られたコミュニティにだけ存在した消費者の声は、簡単に拡散し、多くの人に影響を与えるようになった。
多少のネガティブ要因よりも真新しさなどを優先するアーリーアダプターの声は、すぐに声の大きなマジョリティの一部に吸収されてしまう時代。消費者のニーズは、そのプレゼンスを増す一方である。
そしてこれからは、IoT = Internet of Thingsの一般化が進むことで、消費者が介在する場はさらに増えるだろう。
ソーシャルやモバイルだけではなく、消費者に関するデータがあらゆる場所に存在するようになる。もちろん企業はそれらから様々なデータを入手することになるだろう。しかしそれはまた、消費者も情報発信の場が増えるということだ。パソコンやスマホといった機器から離れて、消費者ニーズは日常の中で具現化されていく。
そうなると、これまでのデジタルマーケティングだけでは企業は対応できなくなる。

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横浜から電車で20分離れたベッドタウンのスーパーマーケットの前にも展開されているデジタルサイネージ

首都圏の主要駅以外でも展開されることが増えたデジタルサイネージなどはわかりやすい例だ。同じネットワークを介した情報配信であっても、必ずしもブラウザを経由しない情報配信が着実に増えてきている。Google Glass等のウェアラブル端末などもそう。

新たなパラダイムシフトは、既にその一端を示し始めている。

リバースマーケット時代

これまでのマーケティングの世界では、ユーザーが何かを求めて、ブラウザへとアクセスしていた。強い目的があるわけではなくても、あるいは暇つぶしのための入り口として、ブラウザを経由して自らの趣向を投影していた。そして企業はそこで得られた情報に対して、広告を展開する。
しかしながら、「どのようなニーズを持った」「どんな」人が「どこに」いるかがもっとピンポイントで分かれば、そんな回りくどい広告を展開するよりも、そのニーズに対して直接ソリューションを提供できれば済む。

例えば、ペットグッズのIoT化で簡単に常時ペットの健康が測れるとすれば、利用したいと思う人もいるのではないだろうか。
仮にそれが首輪の代用品として犬が常に着用するものだとすると、その犬の健康状態や生活習慣、現在地といったデータが収集可能となる。そして、ドッグランなどにデジタルサイネージが設置され、今そこにいる犬の状態に合わせた治療法、食事、はたまた衣服といった広告が提示され、その場で購入できれば、ペットライフは非常に充実し、犬の健康も保たれるのではないだろうか。
あるいはエレベーターのIoT化で、運用効率の最適化と合わせて、各階のオフィスへの訪問状況、その業種などのデータが解析できれば、エレベーター内に設置したサイネージにセグメントを分けた広告を展開することも可能となる。
これまで以上に場所や状況が重要な要素となってくるわけだ。
これは消費者側のニーズが自動的にマーケットに出品される、もしくは消費者の行動がマーケットプレイスを作る状況と呼べるため、我々はこれを便宜的にリバースマーケットと呼んでいる。
IoT時代のマーケティング
たとえ消費者が具体的に何を欲しているかはわからなくとも、そのニーズを構成する要素は様々なデータを解析することで把握でき、その解析情報を活用できる場所も多岐に渡り拡がって来ているのだ。

マーケティングの世界は、得てして現在の常識にとらわれて、あるいは過去に設定したKPIにとらわれて、視野狭窄に陥りがちだ。しかしながら世界はどんどん先に進んでいる。新たな潮流を見過ごすことなく、広い視野で変化に対応していかなくてはならない。

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タナカさん

兵庫県出身。2003年東京外国語大学大学院修了(学術修士)。ウフル・マーケティングインテリジェンス本部(旧マーケティングクラウド本部)のたぶんちょっとエライ人(弊社CSOの田中正道とは別人)。 データドリブンなマーケティングに関して、その仕組みの設計からクリエイティブまで経験。趣味はバルトやデュルーズといった現代思想の研究から草の根音楽活動までと多岐に渡る。要するにオタク。
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